子どもと歩く日記

保育園から手紙が来た。自宅で仕事をしている人は自粛してください、というようなことが書かれていた。硬い文章は人を不安にさせる。まあしかたない、そう思うしかない。

急にこどもと歩く日々がはじまった。

定休日。片付けるべきことは山ほどあるが見ないことにして散歩に出ることにする。外に出るとすぐ「バスみにいく」とかいう。すぐそこの大きな通りまで歩く。途中、歯医者さんの門ががらがらと開きNちゃんとパパが出てきた。おーいと手をふる。出かけるとこないねえ。御所いくのが日課になってるんですよ。そうかひろいもんねー。人多いけどね。ばいばいと手を振って自転車に乗る二人を見送る。

営業日。今日からしばらく店を閉めることにした。なぜかは自分でもわからない。

朝、郵便局に荷物を出しにいく。ちいさな局の中には人が5、6人いた。せまい。急に「だっこ」と言い出す。しかたないので周りの目を気にしながらカウンターに座らせ料金など払う。恰幅のいい局長がにこやかに「いくつ?」ときく。お菓子あげるねー、とどこからかカゴに入った駄菓子が出てきた。ばいばーいと盛大に見送ってもらう。そのままコンビニへ。公共料金の支払い。若いバイトくんのなんでもない対応に意味もなくぽかーんとしてしまう。なんとなく開店時間の11時には帰ってきてしまった。Closedの看板をドアにかけて中で作業することにする。店がせまいのでマガジンラックを外に出すしかない。ただ外に出すのもあれなんでホウキで店の前をはく。けっきょくやってることはいつもと変わらない。やることにしていた作業はまったく進まないまま二人でぼんやり店の前のベンチに座っていると一日が終わった。

今日は14時にOさんがくる。昼ごはんを食べたら寝るのではないか。寝ててくれ。寝かしつけのコツは自分が先に寝ることだと信じている。信じていたら叶った。Oさんとオンラインの可能性についてなんやかんや話す。Wさんが取り置きの本を取りに来てくれた。外で立ち話。配達システムの可能性について。にぎやか。「さっきお子さん起きてきてましたよ」と中で待っていたOさんが静かにいう。え。半開きの戸をそっと覗くと暗い部屋の端っこで静かに独りミッフィーの絵本を開いていた。泣くとかしないのね。

ヤマトの集配センターに行く。「バイクでいく」と言うので三輪車を出してきた。バイクちゃうけどな。なんどペダルに足をおいてもこげない。地面をけって前に進む。大人の足で2分の距離を30分かけて進む。いつのまにか「ちょっとまっててねー」という言葉を覚えたらしい。生きる知恵。案の定とちゅうで「だっこ」といいだした。12キロの2歳児と三輪車と宅急便に出す荷物。手に負えない。

Tくんが路地の入り口からのぞいている。近づいたり近づかなかったりする変な距離。空き地でぐるぐるまわりはじめた。追いかけているわけではない。ただぐるぐるまわっている。ただそれを眺めている。こけたら痛いで。

また定休日。定休日って自分に言い聞かせないとわからなくなる。午前中は庭でドライアイスにじゃあじゃあ水をかける。もくもくでるけむりがちょっと怖い。逃げる。水かける。怖い。逃げる。10回くりかえしても飽きない。昼を食わせて、外へ。荷物を運ぶお仕事。どうしても長靴が履きたいと言う人と、自転車の後ろの席で爆睡する人。ついたら当然のように右の長靴は無くなっていた。どこで落としたんや。安モンやけどややへこむ。本人もやや傾いている。あとで一緒にさがそな。「おいしいもんたべよか」ときくと「ケーキ!」と元気良く返事が返ってきた。

ついに今日が営業日なのか定休日なのかわからなくなった。郵便局へ。途中長屋の解体現場に遭遇ししばらく見とれる。だが父には12時に水野くんが来るという用事があるのだ。すまん。突然訪れたショベルカーとの別れに号泣する子を右手で抱き、左手には三輪車、さらにもう一本の手で払込用紙を持ち、残ったもう一本の手でATMを操作する。口座の残高は見ない。

 

※この妙な文章は定有堂書店さんのミニコミ「音信不通」に掲載していただいたものです