おおきな そうこが ほしい

 在庫のことを考えている。古本は何十冊とまとめて買取らせてもらうことが多い。たとえば5000円で買い取った本のうち500円で10冊が売れたらあとは財産だ。売れればうれしい。10冊売れるまではマイナスだけど。

 新刊はどうか。新刊は支払いが遅いことが多い。本が先に入ってくる。ただ、10冊入れても支払いの期限までに8冊以上売れないと結局は出ていくお金の方が多い。9冊目からが利益。ただ、新刊を10冊入れて9冊売れるまでじっとしていることはまずない。空いた数冊の場所に次の追加を入れる。そしたらどうなるか。次の請求がやってくるのだ。いつまでたっても利益でないんじゃないかこれ。どうなってるんだ。

 そんなこんなで新刊は減らない。古本は突然どさっとはいってくる。

 いよいよ本の置き場がなくなってきた。本棚に収まりきらないどころの話ではない。ぱっと数えてもダンボール10個以上の古本が二階の寝室、階段、居間のはしっこまで侵食している。床が抜ける。

 磨いて値段をつけたものはできるだけすみやかにお店の本棚に出す。そうすると今度は入荷したての新刊の居場所がなくなってしまう。平積みの本の上に違う本が平積みされる。「本は積むと終わりますよ」名古屋からやってきた書店員仲間が恐ろしいことを口走って帰って行った。終わるってなんだ。「三月書房方式やな」と肯定的なことをいう人もいる。京都の老舗本屋さん・三月書房の平台には無造作に旬の新刊がポンと置かれている。これが不思議と欲しい本だったりする。が、うちの場合はそんなかっこいいものではない。ただ置いてあるだけ。下の本が見えないじゃないか。不親切極まりない。

 倉庫がほしいですねえと誰にいうでもなく2ヶ月くらい言いつづけていると近所の小屋に出会った。「昔は染めた布を干してた小屋なのよ」と大家さんが言う。「でもねえ、大学生が急に住むってゆうて住みだしたの。二人くらい。だからガスと電気は引いてあるの」まったくわからないがなんだかいい歴史のある物件のようだ。そんな話をしていると突然、別の近所の人がでかい本棚をくれると言いだした。おそるおそる、契約する前なんは分かってるんですけど本棚だけ先に置かせてもらえませんか…?と言ってみる。「いいわよ、もう鍵預けておきますね」と返事。すぐにでかい本棚が設置される。床がちょっとべこべこしてて不安やなあと思いながら契約書ができるのを待つ。

 しばらくぼーっとしていると「東京から引っ越してきたんです。旦那が大工をしていて」というお客さんがあらわれた。え、と身を乗り出す。古い町家を直しながら住んでいるという。なんだそれは。ちょっとくわしく教えてくださいよ。さっそく倉庫にきてもらうことになった。

 朝、店の前のベンチで待っていると大工さんが歩いてやってきた。奥さんと子どもも一緒。「散歩にちょうどいい距離でした」とかいう。いい天気やなあ。鍵を借りっぱなしの倉庫。もう我が物顔で戸を開ける。床がねえ、とか言ってる間にサクサクと採寸が進む。手際が良い。「棚とかはいらないんですか」と大工さん。あーと曖昧な返事をしつつどんなレイアウトにするか考え始める。壁際に棚があったほうがいいのか、横に何本か並べるのがいいのか。一年ほど前に彦根でのぞかせてもらった倉庫は理想的やったなあ。綺麗にしてはったし本も整理されてた。あんな感じにできるかなあ。こっちにもスペースあるねえ。なんか使えるかなこの空間。いちばんたのしいなこの時間。とか思いながら雑草を抜いたり枯葉を掃いたりしている。隅にカリンの実が落ちていた。見上げると木が一本だけ生えている。黄色い実がいくつかみえる。とってみると甘い匂い。手のひらがカリンの香りになった。ひらひらと手を振って大工さんの一家を見送る。

 すぐに大家さんから電話があった。「あのね、いま不動産屋さんとはなしていて、ちょっとわたしではわからないので代わりますね。お話聞いてくださる?」はいはいと聞けばつまり契約書を作るにあたって不都合があり、解決するにはえらい額の負担が大家さんにかかる。なので貸せません、ということだった。なんじゃそりゃ。

 ふりだしにもどる。でも在庫はもとにもどらない。出ていったお金ももどらない。おもろいなあ。

※この妙な文章は定有堂書店さんのミニコミ「音信不通」に掲載していただいたものです