このへん

 「このへん本屋さん減ったよねえ、昔はそこのかどにもあったんやけど」と、昔話をはじめるおばあちゃん。「本屋さんもへったわねえ」ってほんとだろうか。結構ある気がするんやけど。

 自転車で5分くらいの堀川商店街にはHorikawa AC labがある。印刷所と本屋さんがくっついたぴかぴかの実験室みたいな本屋さん。ガラス張りの外見と真っ白い内装は一見本屋さんには見えないかもしれない。でも並んでる本は文庫があって新書があって、家事の実用書とかパズルの雑誌とか。普通の本屋さん。デザイン書と洋書の京都ガイドがちょっとおおいかな。

 西へ徒歩15分くらい、千本丸太町の角に萬年堂がある。バス停までいく途中にちょいちょいのぞく。雑誌とコミックが並ぶ本棚と、年季の入った配達用のカブ。前を通るたびに安心する。いつまでもあってほしい。祈るような気持ちでたまに雑誌を買ったりする。

 子どもの保育園に行く途中、千本通を15分くらい自転車で走るとあと2軒、おなじような規模の本屋さんがある。大宮通を北に上がっていくともう1軒。どこも雑誌のスタンドがおもてに出ていて、コミックがずらーっと並んでいる。

 ちょっと足をのばしてJR二条駅までいけば大垣書店がある。100坪ちょっとかな。広い。Mさんがいうには「あのなんでもなさはすばらしい。映画見に行ったらぜったいよる。安心感ある」とのこと。

 古本屋さんで一番近いのはあっぷる書店かな。くたびれた新書とか古い辞書とかがずらーっとある。安かったり安くなかったりする。よく行ってたのは古本市場の西陣店。絵本が80円とかで買えるんですよ。でも移転するとかでいまは閉まってる。移転後のオープンは春だそうです。80円均一コーナーはなくなるんやろうか。

 実家が近いのはカライモブックス。お店は自転車で10分くらい。実家には歩いて3分。おかあさんが犬の散歩したはる。奥田さんとみっちんにはコロッケ屋さんでたまに会う。カライモブックスから1分くらいで町家古本はんのき。どちらも大先輩。いろいろ教えてもらっている。近所でよかった。ほんとうによかった。

 さらに二条の駅前にはマチマチ書店が引っ越してきた。美術書とか多い古本屋さん。そしてわすれてはいけないのが狂言屋。

 狂言屋は斉藤さん家。古本イエーの場所。古本イエーとはもともと古本屋がよってたかって一般人の民家を一日だけ古本屋にしようという少々狂った遊びだった。それがいまでは2ヶ月に1回定期開催されるようになり、いつのまにか「狂言屋」という看板もできていてもうだれにも全容が把握できなくなっている。本屋にカウントしていいのか迷う。でも本が買える場所ではあるし本屋なのだろう。行くと「ちょっと飲んで行くかー」とビールをすすめられるし、高い確率でカレーを食べさせられる。うまい。こないだは集まった人たちが線香花火をやっていた。なんだろうあそこは。

 歩いて1分のマガザンキョウトにも本のコーナーがある。「泊まれる雑誌」と看板にはある通り、ゲストハウス兼ギャラリー兼編集室兼雑貨屋兼本屋みたいなとこ。なんて説明したらいいのかいつまでたってもわからない。聞かれたら「あそこにおもろい場所ありますよ」という。

 そんなこんなで自転車で20分以内の範囲に新刊書店が6軒。スーパーの雑誌売り場とかもいれたらもっとある。そこに古本屋さんとよくわからない家あわせたら13軒。多いと感じるのか少ないと感じるのか。ぼくはめちゃくちゃ多いとおうんですけど。

 「減ったねえ」というおばあちゃんが間違っているとは思わない。減ったんだろう確かに。もっとたくさんあった時代。もっと本が売れていた時代。それが普通だった時代。でも僕は本が売れていたという時代を知らない。大学4回生のとき海の向こうでリーマンショックがおこった。それがどれくらいのものなのかわからない。社会に出た時から景気が悪かった。悪いと言われ続けてきた。ジャンプなんかみてるうちになくなっていったんやで、とかいわれてもしらん。

 今日も顔の見えるお客さんと親切なたくさんの本屋さんに囲まれて本を売っている。

 

※この妙な文章は定有堂書店さんのミニコミ「音信不通」に掲載していただいたものです