【風とモビール】さんばんめのお手紙

出窓でゆれていた佐々木未来さんのモビール展。展示は6/24に終了しましたが、写真家の吉田亮人さんと佐々木未来さんのあいだの往復書簡はまだまだ続きます。

最初のお手紙はこちら

二番目のお手紙はこちら

そして、吉田亮人さんから、つぎのお手紙(2022年6月28日)

未来さん、元気ですか。僕は元気です。
お手紙どうもありがとうございました。まず「日めくりと私」を描き始めたきっかけがとても興味深かったです。当時「くたびれていた」未来さんが自身を回復させる手段としてスタートしたとは知りませんでした。同時に驚いたことは、未来さんも「くたびれる」ことがあるんだということです。僕が未来さんに対して抱いていたイメージは、あちこち精力的に動き回って、すごくパワフルで、頭の回転が早いという「くたびれる」なんて言葉から最も離れていたからです。でも、いくら未来さんでもそりゃくたびれることだってありますよね。他人が抱くイメージというものは本当に身勝手なものだと、自省しております。

しかし「日めくりと私」を描き始めたことによって未来さん自身が「一日一回は自分が好きなことができる」という時間を手に入れ、それが絵を描いたり日々を生きていくエネルギーに変換され、結果的に精力的な作品制作と活動を行う源になっていっているのだろうなと思いました。そう考えると、僕が未来さんに勝手に抱いていた「くたびれる」という言葉から最もかけ離れているイメージも納得できるような気がしました。
だって、未来さんがここ数年で行ってきた展示やワークショップの数を考えるとくたびれている暇なんてないくらいですし、実際にいつ出会ってもキラキラと瞳の奥が輝いていて、この人は本当に毎日絵を描くことも生きることも楽しいんだろうなと思わされるからです。 それはまるで石ころや、虫や、草や、花に目をキラキラさせて、いつまでも飽きずに遊んでいる小さな子どもの心に似ているような気がします。
人は「楽しさ」を持って生きていたら、大人になってもこういう目になるんだなと未来さんの瞳と「日めくりと私」は実証してくれているような気がします。 そして、今書きながら気づいたんですが、この往復書簡の第一回目で書いたように、僕が未来さんの絵を見た時に自分の子ども時代を思い出してしまうのも、きっと未来さんが絵を描いている時、小さな子どもの心になっているからではないかと思いました。
もしそうだとしたら、絵描きとしてこんなにも恵まれた才能はないなと思います。無心に「楽しい」と思える時間や、心を持っているって、中年も差し掛かった今、改めて羨ましいなと思います。

どうやったらこの「楽しさ」を手に入れることができるのでしょうか。誰もがこの「楽しさ」を見つけて生きることができたらいいなと思うのですが、現実はそうでもなさそうです。むしろ楽しいことを見つけて生きることよりも、社会が作り出す相対的な基準の中で、いかに効率よく最良の評価を得るかに社会全体の価値観が傾いているような気がします。そこでは個々人の人生の幸福や楽しさといった感情は抜け落ちていて、その代わりに窮屈な空気だけが存在しているように思います。そんな状況の中で、どうやったら自分の心に素直に響きわたる「楽しさ」を持つことができるんでしょうね。

お手紙を書いた人

吉田亮人 Akihito Yoshida
写真家。1980年宮崎市生まれ。京都市在住。滋賀大学教育学部卒業後、タイにて日本語教師として現地の大学に1年間勤務。広告や雑誌を中心に活動しながら、「働く人」や「生と死」をテーマに作品制作を行い国内外で高く評価される。写真集に「Brick Yard」「Tannery」(以上、私家版)、「THE ABSENCE OF TWO」(青幻舎・Editions Xavier Barral)などがある。2021年、写真家としての10年間の活動を綴った書籍「しゃにむに写真家」(亜紀書房)が刊行。日経ナショナルジオグラフィック写真賞2015・ピープル部門最優秀賞など受賞多数。

佐々木未来 Miku Sasaki
イラストレーター、グラフィックデザイナー。札幌生まれ。絵と本と本屋と旅が好き。「日めくりと私」は全国を巡回し、インスタグラムで全作品を公開中。
主なイラストの仕事は、「谷根千のイロハ」(亜紀書房)、「別鶴」(白鶴酒造)、「Tree of Life」(Born Lucky)、「くらし中心」(良品計画)、「sinonokan」(洋 菓子店 sinonoka)、『はるこの祇園祭』(コドモト)。「I・Concept」(株式会社 池田)、「sonarpakhi」のロゴデザインなど。
著書として『日めくりと私』(ambooks)、『ほんとのはなし』(本屋・生活綴方出版部)を刊行。

佐々木未来個展「風とモビール」

会期終了しました!ありがとうございました
2022年5月3日(火祝)-6月24日(金)
会場 開風社 待賢ブックセンター ギャラリー西日
   〒602-8125 京都市上京区大宮通椹木町上る菱屋町818
  11:00-19:00 日月休