結局ここにいる日記

バナナどんな味?と聞いてみると、「つめたいあじー」ともぐもぐ答える三歳児。そうかー。つめたいは味じゃないっていつ誰が決めたんだろうか。おとなになっても一口目のグラタンの味は熱いとしか言いようがない。口がそう言っている。甘い酸っぱいしょっぱいからい、全部口がそう言っている。つめたい熱いぬるいも、硬いも柔らかいも、全部口がそう言っている。

 前の道路が春休みになった。縄跳び、一輪車、キャッチボール。常にさわがしい。かと思うと急に「もう帰ろっかな」とかいう。小学生のとき帰る時間ってどうやって決めてたっけ。暗くなったら帰ってたのか。誰かの親が呼びにきていた気もする。

 一直線に走ってきて「あのすいませんこれお金とってくるんで買いますー」という男の子。なんかのついでとかではない。一回走ってきて、あるかどうか見て、お金取りに帰る。効率、とかいう言葉とは無縁の世界。どうにかしてずっとそのままでいてほしい。

一年前のチラシがくちゃくちゃになって置いてある。「一周年感謝祭」。ふるまいサーターアンダーギー、おとなは泡盛飲み放題、軒下ライブ、懇親会的座談会。ごちゃごちゃとした一日。今年はしずかに鉛筆を作った。店名と「二周年」の文字を入れた。記念品です、とお客さんに渡すとカバンにしまってくれる。まっさらの鉛筆が一本、おとなたちの鞄の中に入っていくのをみるのはおもしろい。どんなカバンにもフィットしないサイズ。家に帰ってカバンを開けて鉛筆が入っていたらどんな気持ちになるのだろうか。筆箱はえらい。鉛筆を握りしめて走っていく小学生を見送るのはちょっとこわい。こけたらささるで。

奈良から本屋のSさんがやってきた。半年ぶりくらい。「今年は引きこもろうと思ってるんですよね」という。なんちゃらマルシェとかどこそこの古本市とかのお誘いが増えてきた。1日だけだったり何週間もあったり、店番に行かなくてはいけなかったり、レジはお任せで良かったり。いろいろ誘ってもらったり誘ってもらえなかったりする。日程が重なると断ることもある。

いいイベントとはなにかと言われるとよくわからない。売れるかどうかと、その後に店に来てくれる人がいるかどうか、と大阪の本屋のSさんが言っていた。あと勉強になるかどうか。売れる催事を企画できる人はすごい。ちょっと真似できない。催事が終わってから店に来てくれる人もすごい。「看板と品揃え見てちょっと気になって」とかいう。すごい。自分もでかい古本市には行っていたが出店している店にも行こうなどと思ったことはなかったな。いいイベントというかいいお客さんか。

で、Sさんの「引きこもろうと思ってるんですよね」とは、それらイベントに出るのを控えようと思っている、という話だった。「最近お店に来てくれる人がまた戻ってきたから」という。個人でやってる店はどこかに出店するときたいてい店を閉めていく。そういう後ろめたさは常にある。店にきてくれるならそれが一番うれしい。そんな当たり前のことをうれしいと思うほどにここしばらくお客さんがいなかった。「引きこもろうと思ってるんですよね」とはつまり、お店を大事にしたいということだと思う。そういう店主は何人もいる。ここ最近とくによく聞く。どっかのお祭り会場よりもこの場所にいたい。

定休日、交野に行った。ずっと行きたかった本屋に。イベントで一緒になることが多い先輩。出店が増えると店はほとんど開いていないらしい。店に入るなり「叱って」と言う村上さん。怒ってほしいですよね。小さな、ごちゃごちゃと詰まった場所だった。本屋に行くってめちゃくちゃ久しぶりだった、と急に気づいた。バックヤードや裏の物置まで侵入して見学する。「いこか」とシャッターを下ろす村上さん。こじんまりした商店街を歩いてお好み焼き屋に連れて行かれる。さっき車の中でおにぎりを食べてしまった。オムそばくらいなら食えるだろ。答えのでない話を延々とする。みんな迷っている。

  

※この妙な文章は定有堂書店さんのミニコミ「音信不通」に掲載していただいたものです