書いたり書かなかったり日記

 久しぶりに連絡を取る人へのメールの書き出しにとても迷う。なんだっていいのだけれどなんだってよくない気もする。ここ数ヶ月のゴタゴタに対して何かを言ってる人が正しいのか、なかったことにしたほうがよいのか。ウジウジしているうちに本当の用件がどうでもよくなってしまう。最近Mさんからもらったメールはとてもよかった。「世の中はコロナワールドですがお元気ですか?」。なんちゅう書き出しだろうか。しばらく用件が頭に入ってこなかった。みんなたのしく強く生きている。

 店の前を緑のおじさんが通りすぎてゆく。以前から多かったが最近とても多い。普段は二条城とかその周りの観光客の駐禁を取り締まっているのだろう。こんな住宅地にまで頻繁にやってくるようになった。だが住民たちの結束は固い。取り締まりが始まると気づいたらクルマを止めている人の家をピンポンする。クルマを移動させるときにはプップーと鳴らして他の家にお知らせする。前の道は広くて一方通行なのでおそらく誰も迷惑していないのだろう。駐禁とらせないという決意を町内から感じる。緑のおじさんたちは悔しそうにしている。ついに緑のおじさんがうちの前に出している均一台のワゴンをじろじろ見始めた。たしかに車輪はついているけども、それはムリでしょう。エンジンないし。運転免許もいらんし。道の向こうから「それはあなたの?」とジャスチャーで聞いてくる。そうですよ、という顔をすると自転車にまたがって去っていった。違うと言ったらどうなっていたのだろう。

 配達のついでに本屋に寄ってみた。レジではYさんがひまそうに忙しそうなふりをしている。急に「自分やりたいんって別に本屋じゃなくてもいいんやろ?」と言いだした。まあそうっすねえ、と曖昧にこたえながら、心の中でまあそうっすねえ、と思っている。どうなんすかね。でも結果本屋になってしまった。どうなんすかね。

 映画を見にいく。大学生が学生寮でなんやする話。間違えて一番前の席に座ってしまいスクリーンの三分の一くらいしかみえなかった。外に出るとクラクラする。寺町通をだらだらと下って丸善に行く。三月書房はもうない。Hifi Cafeもあっというまに閉まってしまった。そういえば吉田屋もだいぶ前になくなった。お腹がとても空いていることに気づくがどこでなにを食べたらいいのかわからない。知らない町をさまよっている。知らない町のしらないケンタッキーではじめてのハンバーガーを食べる。レモネードを注文しておつりを受け取りながらレモネードソーダにしとけばよかったなと後悔している。

 自転車屋の前でMさんが手をふっている。「どうや調子は?」からはじまる普通の会話。新車が納品されないという。4月に注文した自転車は7月に入る見込み、とか。「お客さんよう待ってくれたはるわ」とあきらめたように言う。「新車がはいってこな中古車もまわらへんしな。」というMさんのつぶやきに適当にあいづちを打ちながら、新刊書店と古本屋のことを考えている。自転車屋は中古車も新車も売ってくれるんやな。修理もしてくれるし。本の修理とかできるようになりたい。宅急便の自転車がむこうから走ってきた。うしろに大きな台車を引っ張ってるやつ。あんなんないですか?と聞くと「ない」と笑いながら「30キロくらいいけるやつはあるよ」と言う。

 地蔵盆やるのかやらないのか問題。どうやらぼくが決めなければいけないらしい。なぜなら町内会長だから。誰が決めたんやそんなこと。いろんな人がいろんな意見を言う。誰ももめたいわけじゃない。けど意見は分かれる。

 やらないこと、やらなかったことを考えている。

 いまとなっては遥か昔、ゴールデンウィークはお店をやらなかった。いまでも本屋仲間からは、雨の日は換気ができないから営業しないという話をきく。うちは雨でも風でも基本開けているがお客さんは来ない。きっと閉めていたら来るのだろう。やらなかったらやったときのことはわからない。やったらやらなかったときのことはわからない。ここに書いたこと、書かなかったこと、とか。

  

※この妙な文章は定有堂書店さんのミニコミ「音信不通」に掲載していただいたものをちょっと変えたりしたものです